【専門医監修】オランダで妊娠・出産!~流れと安心ガイド~

季うつ(季節性情動障害)を解決!効果的な方法をオランダ医師が解説【パート2】
オランダで妊娠・出産!~流れと安心ガイド~

(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂

なんと!「和か蘭くんがパパ」になります。

オランダでの妊娠・出産は、日本と比べて自然志向でシンプルなシステムが特徴です。

そして オランダの健康保険に加入していれば、 妊娠出産を通じて医療費はほぼ全て保険会社 や政府からカバーされるので、基本的に無料です。

システムや雰囲気の違いなど「日本と全然違う!」と戸惑うこともあるかもしれませんが、ママの健康と幸福が第一のオランダの周産期ケアと、ベビーやお母さんに暖かくとにかくお祝いムードのオランダの文化は、出産時のみならずこれからの長い子育てにハッピーな姿勢の土台を築いてくれること間違いなしです。

「オランダで出産してみようかな?」
「日本とどう違うのだろう?」
と思っている方のために、今回と次回の二回にわたり、オランダでの妊娠・出産の基本的な流れを解説します。

1. 妊娠がわかったら:まずはホームドクターへ連絡(しなくてもいい)!

妊娠が判明したら(もしくはその可能性が濃厚になったら)、まずはホームドクター(huisarts)に連絡するのが一般的です。とはいえ妊娠出産でhuisartsに会うのはこれ一回で、通常医院で確認のための妊娠検査をして地域の助産院(Verloskundige praktijk)を紹介されて終了です。

Point

妊娠検査薬(ドラッグストアでベビー用品、生理用品、避妊用品などと同じ棚に置いてあります)で陽性が出た時点で、直接これからお世話になりたい(たいていは最寄りの)助産院に連絡しても大丈夫です。

この場合、情報管理のためhuisartsに助産院から連絡されます。

2. 妊婦健診は助産師が担当

オランダでは、正常な経過の妊娠はすべて助産院の助産師(verloskundigen)が担当します。合併症やリスクがある場合、多胎妊娠などの場合は病院の産科が担当しますが、オランダの助産師は血液検査のための採血や超音波検査、一部の薬の処方など医師なしでできる処置が幅広く、通常の妊娠なら出産まで一貫して担当できます。

妊婦健診は通常8週ごろに初回があり、さまざまな希望を尋ねられます。

出産は自宅でしたいか、出産センターや助産院(一部の助産院では分娩のための施設があります)で産みたいか、病院がいいか。

ミルクか、母乳か。また、分娩の際の環境、付き添い、陣痛のケアなど、全て「ママが最も安心して快適に出産できるように」という配慮を第一に本人の希望が丁寧に聞き取りされます。

これらは全て記録され、妊娠出産期間を通じてそれを踏まえてサポートされます。健診はすべて予約制なので待ち時間はあまりなく、問題がなければ問診だけで終わる回もあります。

血液検査は助産院で採血するか、最寄りの病院の血液検査センターにリファーされます。

通常、初期に血液型や感染症の検査、13週前後にスクリーニングのための採血(後述)をしますが、その後経過に応じて必要な検査があれば追加されます。

その後健診は4〜6週間おきに1回、妊娠後期からは2週間に1回、出産直前は毎週、というペースで進みます。

Point

エコー検査は日本よりも頻度が少なく、問診とママの状態の簡単なチェックだけで終わることもあるので「あれ?」と感じることもあるかもしれませんが、必要と判断されれば追加されますし、そうでなくとも「様子を見たい」とリクエストすればエコーを見せてもらえることもあります(費用が自己負担になる場合もあり)。

通常、13週ごろと20週ごろの2回は必ずエコー検査が実施されます。

3. 出生前診断は無料で希望制

オランダではスクリーニングテスト(胎児の染色体異常などの出生前診断)も無料で、受けたいかどうか選択することができます。内容は通常超音波による胎児の首後部の厚み計測(NT,  nekplooimeting)と、妊婦の腕からの採血による新型出生前診断(NIPT)の組み合わせです。

特に後者は精度99%と言われており2023年4月から全ての妊婦に対して無料になりました。
(日本では妊娠出産の他の諸費用と同様自己負担で、比較的新しい検査なので費用は20万円前後です)

4. 心配事や不安はなんでも助産師さんに訊こう!

先述の通り、オランダにおける妊娠・出産は助産師さん(助産院)がケア全般の「担当者」となります。

疑問や不安なことは「この人に言っても仕方ない」と思わずに、「〇〇したいが△△が不安でジレンマを感じているのですが、あなたの意見はどうですか」「〇〇の問題はどんな専門家に相談すればいいのでしょうか」「他の人はどうしていますか。それはなぜですか」とどんどん質問してみましょう。

必要と判断されればふさわしい機関や専門家を教えてくれたりリファーしてもらえることもあり、費用が保険でカバーされたりすることもあります。

5. 「妊娠中の軽い運動」に自転車もOK!

日本では妊娠すると自転車や入浴など様々な活動を控える風潮がありますが、オランダでは「病気じゃないのだから、してはいけないことはない」という考え方が主流です。
(もちろん喫煙や飲酒が止められなければ治療を強く勧められますし、生食も控えた方がいいと言われますが)

「妊娠中の軽い運動」も推奨されており、その中には自転車も含まれています。

中には「陣痛が始まってから自転車を漕いで産院まで行った」などという勇者も。

「妊娠編」はここまでになります。次回「出産・産後編」もお楽しみに!

☆私たちGoodwillもサポートできます!
「オランダでの出産」「今すぐ受診するほどではないが対策を知りたい」「医師にどう説明すればいいか」など、ご相談があればいつでもお気軽にGoodwillに無料でお問い合わせください!

コラム1 妊娠出産を支える様々な専門家

オランダには助産師さんやクラームゾルフのほかにも、妊娠出産を支える様々な専門家がいます。

助産院と連携を取っている場合もあるので、お願いしたい場合はまず担当の助産師さんに訊いてみましょう。

  • ドゥーラ(Doula) 
    妊娠から産後までのママの身体的・心理的サポートに特化した専門家。近年注目度が高まっている。
  • バースコーチ(Bevallingscoach / Geboortecoach) 
    出産時の呼吸・姿勢・メンタルサポートなど、「出産トレーニング」に特化した専門家。
  • 授乳相談員(Lactatiekundige) 
    母乳育児の専門家。産後の授乳の問題(吸着、量、痛み)に対応。
  • 授乳相談員(Lactatiekundige) 
    母乳育児の専門家。産後の授乳の問題(吸着、量、痛み)に対応。
  • 産後ドゥーラ(Postpartum Doula)
    出産後数週間~数か月、感情面・身体面・家事などを多面的にサポートしてくれる専門家。
  • 産褥期理学療法士(Bekkenfysiotherapeut)
    骨盤底筋の回復や腰痛・尿もれなど骨と筋肉に関連する産後トラブルに対応するフィジオセラピスト。
  • 心理士・産後コーチ(Psycholoog / Perinatale coach)
    妊娠・出産に伴う心理的な不安や産後うつなどに対応する専門家。
  • 青少年保健センター(Jeugdgezondheidszorg=JGZ)
    出生前から23歳までの保健全体を担当する公的な保健所。以前、学齢期以前までのケアをする保健所はConsultatiebureauと呼ばれていましたが、近年JGZという呼称をより積極的に使っているようです。23歳になるまでの子どもの心身の健康を守る公的機関で、乳幼児期には乳児・幼児健診や予防接種、育児支援などをここで受けます。
コラム2 妊娠中にしておきたい準備

※以下は助産院で準備するようによきタイミングで指示されます。イメージをつかみやすくするためにざっと目を通していただければ十分です

  • 保険のカバー内容の確認 
    基本的な妊婦健診・出産・クラームゾルフなどはオランダの基本保険(Basisverzekering)でカバーされるので、基本的に妊娠出産は無料ですが、その他の専門家や本人の希望により病院で出産した場合など、カバーされないこともあります。逆に意外なものが保険の適応内だったりもするので、妊娠が分かったら今一度保険の内容を確認・調整しましょう。
  • クラームゾルフの手配 
    助産院もしくは保険会社を通じて、妊娠中期までに申し込む必要があります。
  • ベビー用グッズの準備 
    妊婦健診初期に助産師から、様々な種類のリネン類やkruikと呼ばれるボトル型の湯たんぽなど含むベビー用グッズ買い物リストを渡されます。その中にはクラームゾルフからケアを受けやすくするためのベッドの脚台や尿瓶、ベビーバス、おむつ換え台などがあり、zorgwinkelでレンタルできるものもあります。
    (通常保険でカバーされます)

    ※ベビーベッドやおむつ換え台などはせっかくの赤ちゃんのため、またお世話で大変になる自分のために使いやすい新品を買いそろえるのも楽しいですね。一方でエコや利便性の観点から、できる限りレンタルしたり(オンラインでもレンタルショップ・シェアサービスがたくさんあります)、知人から譲り受けたり、リサイクルショップやmarktplaatsなどで買って自分好みにアレンジする人も多いです。
  • ベビーシートの準備を! 
    出産後車で帰宅する人は、クリブ型のベビーシートを準備しておきましょう。オランダでは135cm未満の子どもを年齢に見合った補助シートなしで車に乗せる行為は違法であり、発覚すると140ユーロの罰金が課されます。タクシーはこの義務から法的には免除されているので、ベビーシートがなくても大抵は快く乗せてもらえますが、お住まいの地域にTaxi Bambinoのようなベビーシート搭載の車両があったり子どもの送迎に特化したタクシー会社などがあればより安心なので情報を控えておいてもいいでしょう。
  • Beschuitとmuisje 
    オランダでは赤ちゃんが生まれると、Beschuitにバターを塗ってその上にピンク(女の子)や水色(男の子)のmuisje(アニスに色のついたシュガーコーティングをしたもの)を振りかけた「ビスハウト・メット・マウシェ」を訪問客や職場の人にふるまう習慣があります。

    どちらも普通のスーパーで、パンコーナーやパンに載せるものコーナーに常に売っています。「kraamzorgがいるうちのほうがママの負担が少ないから」と本当に生まれてすぐにKraambezoek(生まれた赤ちゃんを見に来るための訪問)に来てくれる人もいるので、慌てないように産前に買っておきましょう。
  • geboortekaart(出産お知らせカード) 
    オランダでは「内祝い」のような習慣はありませんが、「生まれました」というお知らせのためのカードを関係者に送ります。通常は赤ちゃんの写真と名前、生まれた日や時間、家族の名前などを書くので出産前に準備はできないのですが…とてもかわいいものも多いので、アイディアを見るだけでも出産が楽しみになります。また、家の外にコウノトリや赤ちゃんなどのかわいい形の看板に名前を書いたgeboortebordや旗を立てる習慣もあります。これは専門のレンタル業者がいますので、地域の業者を探してみてください。
  •  ⭐︎その他、様々なスーパーやドラッグストア、ブランドなどで申請すると無料の「ベビーボックス」をもらえることが多いです。
    妊娠出産期やベビーのために役立つ様々なものが入っている「出産祝い無料福袋」のようなものです。行きつけのお店やお気に入りのブランドで配布していないか、確認してみてくださいね!

(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子 藤尾純子 半田智穂

Dr. 純子の「パパママおたすけアドバイス」

はじめまして、オランダのJGZに勤務しております青少年保健医の藤尾純子と申します。

以下に妊娠中に赤ちゃんのためにできることを少し補足させていただきますので、ご参考にしていただければ幸いです。

1. バランスの取れた食事の摂取

細菌感染(リステリア菌)、寄生虫感染(トキソプラズマ)のリスクを最小限に抑えるため、加熱処理されていない柔らかいチーズ、生ハム、生肉、生卵、生魚の燻製は食べない、或いは充分に加熱してから食しましょう。またビタミンAの過剰摂取は胎児奇形を起こす可能性がある為レバー製品の摂取は控えめにすることが大切です。

2. 葉酸サプリ及びビタミンDサプリ

妊娠をすることを考えたらすぐに葉酸サプリを1日400microgram、受精前から妊娠10週まで継続して摂ることが推奨されます。これは胎児の形成により大きくなる葉酸の需要に対応することで二分脊椎や口唇裂の発症を抑える事ができることが知られています。

また胎児の骨や歯の形成に大事な役割を果たすビタミンDも妊娠中、1日に10microgramずつ補填することが推奨されます。これは食事からだけでは大きくなった需要に見合う量を充分に摂取することが難しいからです。

3. 予防接種が無料

妊娠22週以降の妊婦には最寄りのJGZ施設(Centrum voor Jeugd en Gezin 或いはconsultatiebureau)で予防接種が無料にて提供されます。

対象疾患は百日咳及び冬季(10月15日から3月1日)に限りインフルエンザも対象です。

これは出産前まで受けることができますが出産2週間前までに受けることで胎児をもこれらの疾患から守ることができます。

妊婦の予防接種は妊婦(母体)の作った抗体が胎盤を介して胎児に送られることで生後3カ月頃まで新生児がこれらの病気に対して免疫を持つというものです。

生後、これらの感染症に罹った場合にも軽症で済み入院必要となる状況が回避されます。

また、一般に免疫力の低下している妊婦自身もこれらの病気に罹らない或いは罹患しても軽症に留まるという予防効果が得られます。

早産、或いは低体重出産とならない限り(これらの場合は生後2カ月に接種が必要)新生児も百日咳の混合予防接種を生後3ヶ月まで受けずに済むことになります。

4. RSウイルスの予防接種

また任意(有償€200前後、GGDまたは家庭医にて)でRSウイルスの予防接種を受けることも可能です。

RSウイルスは新生児から1歳未満の子どもが罹ると細気管支炎や肺炎に発達して入院となることの多い感染症です。

妊婦が予防接種を受けることで新生児を生後6ヶ月頃まで免疫で守る(罹患したとしても軽症で治まる確率が大きい)ことができます。この予防接種は出産予定日が冬季11月から3月の間にある妊婦に勧められます。

予防接種を受ける時期(24-36週まで可)としては妊娠30週以降が最も胎児への免疫効果が高くまた長いということです。

(文:Goodwillメンバー 藤尾純子)

Goodwillメンバーのウルセム幸子による「子ども幸福度世界一」のオランダの子育てに関する記事はこちら

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  • 文:Goodwill代表 タナカケン
  • 文:Goodwillメンバー 
    ウルセム幸子 藤尾純子 半田智穂
  • イラスト作画:Goodwillメンバー 半田智穂
  • WEBデザイン・編集:チューリップデザイン
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