
(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂)
前回は「オランダにおける妊娠生活」をまとめました。
今回はいよいよ出産・産後編です!1〜5に関しては前編をご確認ください。

6. 陣痛が5分間隔or破水で助産院に電話!
破水したら、もしくは陣痛が始まって間隔が短くなってきたら(妊婦さんの状況や助産院の方針にもよりますが、通常初産婦は5分間隔、経産婦は7分間隔で電話してと指示されます)、あらかじめ指示されていた助産師の番号に電話します。
24時間体制なので夜中でも早朝でも車で駆けつけて、希望の出産場所まで連れて行ってくれます。
(もしくは自宅分娩のサポート体制に入ってくれます)
7. いよいよ出産!
生まれるまで助産師さんが付き添って、呼吸指導や陣痛ケアなどをしたり、医師に引き継ぐ必要がないか見守ってくれます。また、自宅や助産院での出産の場合は選択肢が限られますが、病院では無痛分娩をその場で選択することもできます。
(詳しくは本文下の「コラム オランダの陣痛ケア」をご覧ください)
「へその緒」を保存する習慣はオランダにはありません。へその緒はご自身とパートナーで切るので、適当な長さに切って「これを持って帰る」と主張すればお持ち帰り用に適当な容器に詰めてくれます。
もしくは赤ちゃん側から数センチのポイントでクリップで止めたまま自宅に帰り、数日後におへその根元から自然にポロリと取れるので、それを保存するという人もいます。
(筆者は産後息も絶え絶えで説明が足りなかったため、満面の笑顔で50cmくらいのへその緒の全長と胎盤を全て渡され、タプタプの袋を手に途方にくれました)
8. 産後2,3時間で家に帰る
日本では考えられませんが、母子ともに何の問題もなく、日中であれば産後3時間程度で退院になります。
平日の昼間でも遠慮せず赤ちゃんのパパやパートナーに迎えに来てもらいましょう。ここはオランダです(というよりおそらく出産に付き添っているのでそのまま家に連れて行ってもらいましょう)。
9. オランダの至宝・産後ケア師(Kraamzorg)のサポートを満喫する
オランダにおける出産の最大の特徴はクラームゾルフ(産後の母子の健康サポートに特化した専門家)ではないでしょうか。
出産後、産院から家に帰ると玄関で待ち構えているくらいのスピード感で配置され、1週間前後毎日自宅に通って来て母子の健康状態をチェックし、必要に応じて医師と連携を取り、授乳や赤ちゃんのお世話についてパパとママに色々教えてくれます。その他に掃除料理洗濯や来客の対応などの軽い家事もこなしてくれます。
看護師兼メイドさん兼心理士兼実家のお母さんのような、とにかくありがたい存在です。
また、助産師さんも産後自宅を訪問してくれ、母体の回復やベビーの体重のチェック、縫合箇所の抜糸なども含め、kraamzorgさんとチームになってケアをしてくれます。
日本では産後病院で受けるケアを、自宅のベッドで受けられるシステムが整っていると言えるでしょうか。
kraamzorgさんは標準的には産後8日ほどにわたって計40時間程度勤務してくれますが、時間数は個々人の状況に応じて24-80時間の間で決まります。
涙なしには最終日を迎えられないので、ハンカチをご用意ください。
クラームゾルフさんと相性が合わないと感じたら、派遣元に問い合わせて「今の人もとても良くしてくれているが、もっと英語が話せる人にしてもらえるともっと助かる」「私が外国人で色々と教えてほしいので、もっと経験豊富な人がいい」などお願いしてみましょう。
次の日から都合がつく人がいれば、チェンジしてもらえます。
とても大変だけれど一生思い出に残る大切な時期です。遠慮はいりません。
10. おっと忘れないで。出生届
オランダでは赤ちゃんが生まれてから「3営業日以内」に、「生まれた場所(住所ではなく)の地元の市役所に」、「出産に立ち会ったパートナー、いない場合は出産に立ち会った家族や友人(それもいない場合最終手段として分娩に関与した医療関係者)が」出生届を提出する必要があります。
つまり赤ちゃんの顔を見てから出生届を出すまでに最大3日しかないので、名前は妊娠中にある程度考えておいた方が無難かもしれません。
出産した病院や助産院でもらった出生証明書と、届けに行く本人のID(パスポートなど)を持っていきましょう。
無事市役所に登録されれば出生証明書が発行してもらえるので、それを持って3か月以内に日本大使館や日本の本籍地の市役所で日本にも出生届を出せます。
日本では国内で生まれた子どもは14日以内、海外で生まれた子どもは3か月以内に出生届を出す決まりなので、オランダとずいぶん差がありますね。
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。
ここまでがいわゆる「周産期」までの流れです。生まれた赤ちゃんの乳児検診や幼児健診、予防接種の日本とオランダの違いなどに関しても、回を改めてお話しいたします。
お楽しみに!
先述の通り、オランダで産科のある病院ならその場で希望すれば無痛分娩に切り替えてもらえます。
妊婦健診で希望を訊かれたときに伝えておくと用意しておいてもらえるのでより安心です。
助産院や自宅では設備がないので難しいですが、出産の最中にどうしても無痛出産に切り替えたくなったら、助産師さんが病院に運搬できるか検討してくれます。
ただもちろん副作用もあるので、筆者のように分娩が夜中になったら「麻酔医が家で寝ているからこれから起こして連れてきても間に合わない」ということもありますし、他のママから「あの手この手で通常分娩で乗り切らせようとする」という噂もちらほら…。
しかしいわゆるエピデュラル(硬膜外麻酔)以外にも、陣痛ケアのための道具が様々に用意してあります。
- シャワーやバスタブ、足湯、サクランボの種カイロで体を温める、バランスボールで体を揺らす、パートナーなどにマッサージしてもらうなどの自然派ケア
(筆者の場合は助産師が鬼コーチとなって夫に私の腰をさすらせたり、私に『陣痛と同じ強さで旦那の手を握りなさい!』と指示したりして、出産後は筆者よりも夫がボロボロになりました) - ペチジン注射
(モルヒネに近いオピオイド系鎮痛薬の筋肉注射で、2-4時間効果が持続。麻酔医が必要ないので実施のハードルが低いが、ベビーの呼吸抑制などの副作用があるのでモニター必須) - レミフェンタニルPCA
(短時間作用型のオピオイドを点滴で静脈から投与、産婦本人がボタンを押して投与量を調整する。ペチジン注射同様麻酔医が必要ないが赤ちゃんのモニター必須) - 笑気ガス
(亜酸化窒素=N₂Oと酸素の混合ガスでリラックスでき、歯科治療などでも利用されている。赤ちゃんへの影響が非常に少ないが痛みを消すという性質のものではない)
(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子 藤尾純子 半田智穂)
周産期とメンタルヘルス
妊娠期間。ワクワクするけれど大変な時期です。
特にオランダに暮らす日本人の妊婦さんは、家族のサポートもない中で文化や言語の違い、日本とは異なる医療システムなど様々なギャップに直面することになりがち。おのずと妊娠中のうつ病や不安障害のリスクが高まる可能性があります。
特に過去にうつなどメンタル面で大変な経験をされたことがある方は、妊娠中の体やホルモンの変化による影響で症状が再発する可能性が高め。ご自身のメンタルヘルスを特別にいたわることが必要です。
一方で、妊娠が一時的にメンタルに安定をもたらす場合もあります。
不安障害やパニック障害の症状が、妊娠中に軽減または消失するケースが少なからず報告されており、これは妊娠による生物学的なメカニズムが妊婦の精神状態を安定させる働きをするためと説明されています。
妊娠中にメンタルヘルスの問題の可能性に気づいた場合や、精神科の薬を服用している場合、または過去に精神的な疾患を抱えていたことがある場合は、ぜひまずはかかりつけのホームドクター(huisarts)に相談しましょう。
軽度の問題であれば、ホームドクターから精神科医にリファーしてもらえます。状態が複雑で通常の精神科ケアでは十分でないと判断された場合は、精神科でなく「POPポリ(POP Poli)」にリファーしてもらえます。このPOPポリは、大きな総合病院に設置されていることが多い専門外来です。
POPとは、「精神科(Psychiatrie)、産科(Obstetrie)、小児科(Pediatrie)」の3つの専門科の連携による外来を意味し、妊娠中および出産後の母子の健康を総合的にサポートします。
POP Poliにおける連携と役割
- 精神科医→症状のコントロールを手助けし、必要に応じて治療やカウンセリングを行い、妊娠中の薬の使用や継続について個別にアドバイスします。多くの抗うつ薬は妊娠中・出産後・授乳中でも使用可能とされていますが、ご自身とおなかの赤ちゃんの安全のために、精神科医に薬のメリットとリスクを評価し、最適な方針を提案してもらいましょう。
- 産科医→妊娠と出産の安全をしっかり見守ります。
- 小児科医→出生後の赤ちゃんのケアを担当します(妊婦さんが精神科の薬を使用していた場合、生まれた後赤ちゃんの観察が必要になることがあるため)。
(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
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- 文:Goodwill代表 タナカケン
- 文:Goodwillメンバー
ウルセム幸子 藤尾純子 半田智穂 - イラスト作画:Goodwillメンバー 半田智穂
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