【医師監修】オランダでの子どもの予防接種完全ガイド!日本とオランダ、どう違う?

【医師監修】オランダでの子どもの予防接種完全ガイド!日本とオランダ、どう違う?
【医師監修】オランダでの子どもの予防接種完全ガイド!日本とオランダ、どう違う?

(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂

目次

子どもの予防接種、管理が大変!

ベビーの予防接種スケジュールの管理は、日本にいてもたいへん。ただでさえ寝る間もない子育てと日常生活の合間を縫って、いつ、どのワクチンを受けるのかスケジュール表とにらめっこして、任意のものはどうするか決めて、何をどこまで受けたのか把握して、次はいつごろ何の予防接種があるか念頭に入れて、近くなったら予約して…。

そんなさなかに海外に家族で移住、などという話が出れば、「残っている予防接種はどうするの?!」と軽くパニックになって当たり前ではないでしょうか。

意外とラクなオランダの予防接種システム

でも、ご安心ください。

今回は私たちGoodwillのメンバーでJGZ(青少年保健所)にお勤めのお医者さん・ジュンコ先生が、日蘭の予防接種システムに関してくわしく解説してくれています。

また、オランダの予防接種プログラムは、費用負担も定期接種の内容も基本的に日本とほぼ同じ。

行政側が一人一人の子どもの予防接種の進捗を把握していて、よきタイミングで必要な予防接種への招待状を送ってくれるので、履歴や予約を保護者が管理する日本よりも楽なくらいです。

種類によっては推奨されている接種タイミングが若干違うものもありますが、今までに受けた予防接種を届け出れば次に何の予防接種をいつ受けるべきかJGZが判断してくれます。

自治体にもよりますが、だいたい市役所で住民登録をし、子どものBSN番号を取得すると地域のJGZから初回の健診への招待状(封書)が届いて、その健診の場で今まで受けた予防接種を申請するという流れになります。

日本で使っていた母子手帳を持っていけばたいていはことが足りますが、もしも母子手帳の予防接種の履歴が日本語表記しかない、もしくはもっと一目でわかってもらえる書類にまとめたい方のために、今回のコラムの巻末に書き込み用フォーマットを用意しました(あくまで利便性のためにGoodwillがプライベートに作成したもので、必要書類ではありません)。

一方で、日本で定期接種の水痘(水ぼうそう)や日本脳炎など、オランダで定期接種に含まれないものもごく一部あり、どう対応するかは保護者の判断になります。こちらに関しても、以下のジュンコ先生のコラムがご参考になれば幸いです。

(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

子どもの予防接種についてご質問があればいつでもGoodwillにお問い合わせください!

Dr.ジュンコのパパママおたすけアドバイス

オランダと日本の小児の予防接種スケジュールの違い

日本小児科学会の推奨する予防接種と、オランダのワクチン接種プログラム(Rijksvaccinatieprogramma=RVP)に含まれるワクチンの種類は、下の比較表を見ると分かりますようにほぼ一致しています。水疱瘡(水痘・水ぼうそう)、日本脳炎、結核がもっとも主な違いでしょうか。

定期・任意接種 日本とオランダ比較表 

※〇=定期(無料)接種 △=任意(自費)接種 ✕=一般的ではない

スクロールできます
日本オランダ
RSウィルス抗体
(0歳児対象)
蘭:RS-virus(RS)

 (ワクチンは妊婦さんなどが数万円の自費負担で受けることもあるが、抗体の投与はまだ一般的ではなく受けるとすれば非常に高価)

 (2025年9月より4月以降に生まれた0歳児を対象に冬季に定期接種)
ロタウイルス 
蘭:Rotavirus(Rota)
肺炎球菌
蘭: Pneumokokken(Pneu)
5種混合(DPT-IPV-Hib) 
蘭: DKTP-Hib
ジフテリア  蘭: Difterie(D)
+百日咳(P) 蘭:Kinkhoest(K)
+破傷風(T) 蘭: Tetanus(T)
+ポリオ(IPV) 蘭:Polio(P)
+ヒブ(インフルエンザ菌b型=Hib) 
蘭: Haemophilus influenzae type b (Hib)

(DKTP-Hib-HepBとして6種混合ワクチン)
B 型肝炎 
蘭:Hepatitis B (HepB) 
※蘭では上記五種と混合で6種混合ワクチンとして接種
麻疹・風疹(MR) 
蘭:Mazelen(M)・ Rodehond(R)

(BMRとして3種混合)
おたふくかぜ
蘭:Bof(B) 
※蘭では上記MRと混合でBMR(3種混合ワクチン)として接種

ヒトパピローマウイルス(HPV)  女子
蘭:Humaan Papillomavirus(HPV) ※蘭では男女全員定期接種

ヒトパピローマウイルス(HPV)  男子
蘭:Humaan Papillomavirus(HPV) ※蘭では男女全員定期接種
結核(BCG) 
蘭:BCG(BCG)

(日本は先進国の中で依然として感染率が高いため)

(両親の出身国や家族の感染歴から高リスクと判断された子どものみ提供=無料招待。自費の場合は€56/1本など)

水痘 (水ぼうそう)
蘭:waterpokken (国際名称に合わせてまれにVZV=varicella(-zoster) virusと表記されることあり

(費用例:Travel clinicで€70-€80/1本×2回など)
日本脳炎
蘭:Japanse encefalitis

(費用例:Travel clinicで€150/1本×2回など)
髄膜炎菌
蘭:Meningokokken ACWY

違いの理由

水疱瘡がオランダのプログラムに取り入れられていないのは、ほとんどの子どもが幼いうちに掛かり軽症で済むこと、長期でのワクチンの副作用がまだ明らかでないことなどが理由です。

そして結核に関しても日本に比べて感染者が少ないため(参考:2020年有病率10万人当たりオランダ36,1人、日本102,3人)定期接種ではありません。

また蚊によって媒体される日本脳炎は名前からも想像がつく通り、オランダでは見られません。 

一方、おたふくかぜのワクチンは1987 年以来オランダで定期接種に導入されており、それはおたふくかぜの合併症として発症することのある髄膜炎に罹る人が年間数百人もいたからとされています。

オランダ定期接種スケジュール表

さてオランダで出産された方にはご存知の方も多いかと思いますが RIVM ( Rijksinstituut voor Volksgezondheid en Milieu / National Institute of Public Health and Environment/ 国立公衆衛生・環境院) のサイトに RVP (オランダワクチンプログラム)の定期接種スケジュールを比較的見やすく示したイラスト入りの一覧表があります。
(↓こちらからダウンロードできます)

また子どもの成長に合わせ時系列で受けるべき予防接種が英語で説明されているサイトもあります。

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オランダに来る前に受けなかった予防接種はどうしたらいいの?

さてそれでは、日本で予防接種を始めたけれど途中でオランダに移住した場合はどうなるのでしょうか。 

基本的にオランダ政府は自国に長期滞在あるいは居住するすべての子ども(0-18才)にワクチン接種プログラムを無償で提供しています。

外国から移住した子どもに関しては、 予防接種の管理をする組織が各個人のワクチン接種歴を鑑みてオランダワクチン接種プログラムと相違する部分に関して追加接種のスケジュールを作成し、RIVM(先述)と提携して保護者(16歳以上の場合は本人)に対してワクチン接種の招待状を送付します。どこでワクチンが提供されるかは年齢・地域によって異なり、招待状に日時や詳細と共に明記してあります。 

また、オランダでは基本的にすべてのワクチン接種に関して保護者と本人の意思が尊重されており、例えば受けずにいたワクチンがあった場合も子どもが18歳未満で親あるいは本人の意向が変わった場合、年齢に合わせて有意義と考えられるものについては希望した時点で無料で接種を受けることが可能です。 

オランダで定期接種でない予防接種に関して

オランダで定期接種になっていない日本脳炎・水疱瘡・結核(BCG)の予防接種をオランダで受けたい場合は、地域の GGD(Gemeentelijke gezondheidsdienst /市の保険サービス) あるいは huisarts (家庭医 GP) 、travel clinic(旅行で海外に行く予定のある人のためのクリニック)などで受けることが出来ます(GGDやhuisartsに尋ねればどこで受けられるか教えてもらえます)。こちらは定期接種として認められた場合のBCG(上記比較表参照) を除いて自分で予約を取って受けることになり、自費となります。 

水痘については日本、アメリカ、ドイツでは国のワクチンプログラムに取り入れられ提供されています。ただし、重度の症状をきたす確率の高い以下に該当する者へのワクチン接種はオランダでも推奨されています。

  • 水痘にかかったことのない大人で周産婦医療に携わり子供と接触する者、あるいは免疫力の低下した患者と濃厚な接触をする職に就いている者
  • 12歳以上の子どもでこれまでに水痘にかかったことのない者
  • 妊娠希望のある女性でこれまでに水痘にかかったことのない者

水痘ワクチンを打つことのメリットは接種後に水痘に感染しても症状が軽くて済むこと、そして何年もあとに免疫が低下した時に発症することのある帯状疱疹に罹る確率が抑えられることです。

オランダで受ける(自費)場合、水痘流行などの特別な事情を除き、子どもが1歳になってから2回接種します。医学的にワクチン接種すべきかどうかは公衆衛生の考え方、ワクチン接種の対象年齢の設定等、複雑な因子が絡むので一概に言い切れませんが、もしオランダでお子様が水痘にかかる前に日本で無料で受けられる機会があるなら、受けることをお勧めします。

全ての予防接種に言えることですが、推奨されている接種の間隔はもちろん免疫の維持、補強に一番効率いいように設定はされていますが、日蘭で標準接種時期に数か月のずれがあることからもわかる通り厳密にこの時期でないと意味がないというわけではありません。予防接種を受けないよりは受けた方がもちろん最終的に得られる免疫力は大きくなりますので、もしも推奨時期にオランダで自費で接種を受けるのが難しくて受けそびれてしまったような場合でも、次に日本で受けられる機会に受けることをお勧めします。

<RSウイルス抗体投与が2025年9月から新しく導入されました!>

また、今年度9月から新しくRSウイルス抗体投与が導入されました。初年度の投与は2025年4月以降、翌年3月末までに生まれた新生児が対象となります。

RSV(respiratoir syncytieel virus)は例年冬季に流行する気道感染症を引き起こすウイルスで、特に6ヶ月以下の新生児では重症になり易く入院またはICUでの治療が必要になることが多いです。毎年オランダでは1500-3000人の1歳未満の乳児が入院治療を必要とします。

抗体投与はワクチン接種と同じく筋肉注射しますが、以下のような違いがあります。

ワクチン

病原体の一部を接種し、身体に免疫反応を起こさせて自分で抗体を作らせる。

抗体投与

すでにできている抗体を身体に入れる。

このため抗体投与はほぼ副作用がみられない、また接種されたその日から免疫が得られるというメリットがありますが、一方で免疫作用の保持期間が短いというデメリットがあります。

9月からオランダで0歳児に投与されているRSウイルス抗体は、効果の持続期間が約6か月間のため、重症化しやすい1歳未満の赤ちゃんを冬の流行時期に守るため9月から翌年4月初旬まで接種が行われます。

本年4月以降に生まれた乳児はCJG/JGZにて無料で受けることができます(他の予防接種と同じく招待状が届きます)。

RIVM (National Institute for Public Health and the Environment )のウェブサイトで英語の説明の栞”Protect your Banyan against RSV”をダウンロードすることが出来ます。

以上、ワクチンプログラムについて記載しました。

(文:Goodwillメンバー・青少年保険医 藤尾純子)
(編集:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

=補足=

日本で使っていた母子手帳を持っていけばたいていはことが足りますが、もしも母子手帳の予防接種の履歴が日本語表記しかない、もしくはもっと一目でわかってもらえる書類にまとめたい方のために、書き込み用フォーマット(Vaccination Record)を用意しました(あくまで利便性のためにGoodwillがプライベートに作成したもので、必要書類ではありません)。

以下PDFを印刷してお使いください。

  • 文:Goodwill代表 タナカケン
  • 文:Goodwillメンバー 
    ウルセム幸子 藤尾純子 半田智穂
  • 編集 ウルセム幸子
  • イラスト:Goodwillメンバー 半田智穂
  • WEBデザイン・編集:チューリップデザイン
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