

(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂)
「ストレスはマネージするもの」なオランダ
私たち日本人にはどこか、「ストレスはあって当たり前」「がんばりすぎてこそ一人前」という価値観があります。
一方、個人のメンタルヘルスが身体的な健康と同様に重要視されるオランダでは、ストレスや心の不調は、風邪や骨折と同じようにケアすべき「健康問題」とみなされます。彼らにとって自分の心は自分そのものではなく、身体や車と同じように大切にケアしながら使っていくものであり、根性だけでコントロールしきれないのは当然なのです。
ましてや私たちは外国であるオランダで生活し、仕事や勉強、子育てをしています。文化や言葉の壁、孤立、逆に狭い世界での人間関係ストレス、日光や慣れ親しんだ娯楽の不足…ちょっと不調をきたすことがあって当然ではないでしょうか。
「こんなことで相談していいのか」と遠慮する必要はありません。「気分が落ち込む」「やる気が出ない」など以外にも、「寝つきが悪い」「やけに疲れやすい」「ストレスが高い時に特に咳が止まらない」など、心の問題か体の問題か分からないときもホームドクターに気軽に相談できます。「医者に相談しても激務の仕事量が変わるわけでもないし」と思っても、逆にそんなときこそ、そんな状況で自分の心身の健康を保つための方法をお医者さんに相談しましょう。
ホームドクターには薬の提供以前にも、ストレスマネジメントの方法、ライフスタイルからのアプローチ、身体症状への対策など、さまざまなアドバイスをしてもらえる可能性があります。もちろんサポートになると判断されたり、本人の希望があれば心理士や精神科医といった専門家にリファーしてもらえます。
苦労が美徳でない国・オランダにいるときこそ、心のメンテを気軽に体験してみるチャンスかもしれません。
以下でオランダで20年間精神科医として活躍するケン先生の詳しい解説をぜひお読みください!
“I often feel tired and unwell, and I’m not sure if it’s physical or mental.”
(よく身体がだるく具合が悪くなるのですが、原因が身体的なものか心理的なものか分かりません。)
“I’m under a lot of stress from work/home, and I feel like I’m reaching my limit.”
( 仕事/家庭のストレスが強く、限界に近いと感じています。)
“I’ve been feeling very anxious recently, and it’s starting to affect my daily life.”
(最近とても不安が強く、日常生活にも影響が出ています。)
“I’m having trouble sleeping. My mind keeps racing and I can’t relax at night.”
( 眠れません。夜になると頭が冴えてしまい、リラックスできません。)
“I’ve been feeling very low and unmotivated for the past few weeks.”
( ここ数週間、気分が落ち込み、やる気が出ません。)
(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

オランダでメンタルな問題、気分の落ち込み、ストレス、適応の問題、不安などのメンタルな症状を感じた場合、公的なメンタルヘルスケア(GGZ)を利用することができます。オランダのメンタルケアシステムは世界の中でも比較的整っており、利用しやすいことが特徴です。そして身体的な不調と同じく、メンタルケアもまず「ホームドクター(GP/huisarts /かかりつけ医)」から始まります。
GP は相談者の状況を評価し、適切なレベルのケアへ紹介します。症状が軽度であったり、一般的なお悩みの場合、GP は POH-GGZ(メンタルヘルス専門看護師・心理士)に紹介することが多いです。この場合、待機期間もほとんどなく、ケアも短期間で終了します。
問題がより複雑な場合、GP は専門のメンタルヘルス機関へ紹介します。個人開業の心理士から大規模な医療機関まで様々で、規模が大きいほどさまざまなセラピーの選択肢があり、必要に応じて入院治療が可能な機関もあります。
■ 待ち期間問題
しかし一方で、オランダのメンタルヘルスケアは需要に供給が追いついていない面もあり、専門分野によってはケアを受けられるまでに数ヶ月~1年以上待つことも。その間に症状が悪化したり、「ケアを求めているのに専門家に会えない」という状態に陥りやすくなります。
特に外国人にとっては言語の壁により、この時期がより辛いものに感じることもあります。
■ 言語と文化:日本人が抱えがちなハードル
オランダのメンタルヘルスサービスの多くはオランダ語話者を対象としています。一部の心理士は英語や他の言語に対応していますが、日本語での心理支援は非常に数が限られます。
そのため、日本人がメンタルケアを求める場合、以下のような状況に置かれがちです。
- 友人に通訳を頼む
- 英語で感情を説明しようとするが、うまく表現できない
また、日本ではメンタルヘルスに対する スティグマ(偏見)が強く、症状が深刻になるまで助けを求めずにがんばってしまう人が多いです。うつや不安があっても、周りに迷惑をかけたくない、弱く見られたくないという思いから「隠す」「我慢する」、さらに「自分自身で認識できない」こともよくあります。
■ 「我慢すればいい」…でも心は限界
日本人は(もちろんオランダ人も)、感情を押し込め、耐えればやり過ごせると考えることがあります。しかし、感情の回避はあくまで問題の先延ばしにすぎません。
特に 40~50代のミドルライフに差し掛かると、蓄積したストレスや役割の変化により、 それまでのコーピング(対処能力)が限界を迎えることがあります。この時期は、「精神的なサポートは贅沢品ではなく、必要なものだ」と気づく転換点になることもあります。
心理的なサポートは、
- 新しい コーピングスキルを学ぶ
- 感情を適切に扱えるようになる
- 自分の人生をコントロールできる感覚を取り戻す
ための場です。
■ 薬について:オランダは慎重
「心理的な支援=薬を飲む」と考える人もいますが、オランダでは薬は最終手段と見なされています。一方、日本では比較的早い段階で薬が処方される傾向があり、それがオランダで精神科医に相談することへの不安や抵抗感を生むこともあります。
■ 若い世代(18–25歳)で急増中のストレス
オランダでは若年層のメンタルヘルス問題が急増しています。その背景には次のような社会状況があります:
- 手頃な住まいが見つからない
- 非正規・短期契約など不安定な雇用
- 学業や成果を求められるプレッシャー
- SNS でつながっていても、孤独を感じやすい
日本人の若者がオランダで生活する場合、これらに加えて言語と文化の壁がさらに重くのしかかります。
「周りに迷惑をかけたくない」「頑張るべきだ」という日本的な意識から、助けを求めることを躊躇しがちな傾向もあります。
しかし、オランダでは心理士に相談することは“責任ある行動”と考えられています。感情を共有し、自分を守り、大切な人との将来を守ってゆくための大切なステップです。
■ 日本人がオランダで心理的サポートを探すための実践的ステップ
- まず GP(かかりつけ医)へ相談する — メンタルヘルスケアへの入り口は GP です。
- POH–GGZ(メンタルヘルス相談員)を勧めてもらう — 気軽に利用でき、待ち時間が短いことが多いです。
- 英語に対応した心理士や、expat 専門のクリニックを探す — 国際クライアント向けのプライベートクリニックもあります。
- 日本人団体(あなたの団体)へ相談する — ケアの探し方、情報提供、言語サポートなどが可能です。
助けを求めることは弱さではありません。
勇気です。
メンタルヘルスのサポートを受けることは、「あなたに問題があるための残念な結果」ではなく、「自分と周囲の人を大切にするための勇気ある選択」です。
どうしたら良いかわからない場合は、とりあえず最初のステップとしてGoodwillへお問い合わせいただくことも可能です。
どう相談すればいいかクリアにイメージできない場合は、いつでも私たちGoodwillにご相談ください!
(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
- 文:Goodwill代表 タナカケン
- 文・訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子
- イラスト作画:Goodwillメンバー 半田 智穂
- WEBデザイン・編集:チューリップデザイン

