

(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂)
ライフスタイルと住宅設計の厄介な関係
オランダに来て、家に入居して数か月。
入居当初から「バスルームにろくな換気システムがないけど、これでいいのかな?」と思っていたのだけれど案の定、最近天井に不穏な黒い点々が!
毎朝寝室の窓の結露がひどいなと思っていたらやっぱり、窓枠が真っ黒に!
キッチンのガスレンジの上の換気が甘くないか?と思っていたら果たして、いつの間にかキッチンの壁もカビと油まみれに!
これらは決して珍しいことではありません。住宅の構造や気候、ライフスタイルの違いの影響で、オランダに住み始めた多くの日本人が経験するのが「家のカビ問題」です。
結論からものすごくざっくり申し上げて、オランダの家は「外が寒い」ことを想定して設計されているため気密性が高く、「バスタブはあったとしても基本的には毎日ぬるいシャワーをさっと浴びるだけ」を想定しているためバスルームの換気や防カビ対策も非常に控えめで、「加熱調理は簡単に一日に一回」であることを想定しているためキッチンの換気もたいへん穏便な感じなことが多々あります。
次々と明らかになるカビの健康への影響
カビがさまざまな健康トラブルの原因となることは周知されてきていますが、一方で、ヨーロッパでは最近、「湿った住環境(damp housing)」とメンタルヘルスとの関連がさまざまに研究されています。
「カビのある家に住む人はうつ症状のリスクが約34〜44%高い」「湿気のある家に住む人は心理的ストレスのリスクが高い」などといった調査結果が報告されており、 直接的な因果関係に関してはまだ十分な証明がなされていないものの、カビや湿気の多い環境が心身の健康をむしばむ可能性は濃厚になってきているようです。
では、なぜ在蘭日本人の家ではカビが発生しやすいのでしょうか。
在蘭日本人の家がカビやすい理由3つ
- 長いシャワー・入浴習慣
日本人の私たちは、毎日お風呂であたたまって1日の疲れと汚れを取りたいもの。健康にはとても良い習慣ですが、残念ながらオランダのバスルームはその習慣を想定して作られていません。オランダではそもそもバスタブがない家もざらにあり、多くの人は朝にぬるいシャワーを2~3分浴びるだけ、そして水垢の「ウロコ」がつかないように窓掃除ワイパーのようなもので毎回シャワーブースの水滴を取ったり、自分のバスタオルで拭いたりしてから出る人も少なくありません。私のような寒がりの日本人は想像するだけで体が冷えてきそうで辛いですが、そもそも普通のオランダ人にとって冬のシャワー後が寒いのは、冬の便座が氷のように冷たいのと同様当たり前のことなのです。 - 毎食加熱調理をしている
通常のオランダ家庭では1日に3回加熱調理などしません。朝と昼は焼かないパンに各自何かを乗せて食べ、夜だけは温かい食事を食べますが、それすらも日本の家庭料理と比べて至ってシンプル。必然的に、日本人の勤勉な主婦が毎食せっせと家族のために煮炊きしていれば、家の中の湿度も、ついでに二酸化炭素濃度や空気中に放出される油の量も、オランダの家が想定している範囲を軽く超えてしまいます。 - 室内干し
日本では一般的な室内干しですが、洗濯1回につき1~2Lの水分を室内に放出します。オランダの住宅では乾燥機を使う家庭が多いので、これも軽く「想定外」です。
カビを防ぐためのシンプルな対策
とはいえ、お風呂や3度の温かい食事の習慣をいきなり手放せというのは、私たち日本人には酷な話。この場合カビ対策の基本は「こまめに湿気を外に出すこと」に尽きます。
例えば
- 朝10分窓を開ける、結露をワイパーやタオルで取る
- シャワー・入浴後はすぐに水を抜き、換気する
- 料理中は換気扇をMAXに、窓を開ける
- 湿度計を置き、室内湿度を40〜60%に保つ
- 窓のすぐ横の小さな換気口(ventilatierooster)を開けておく
といった小さな習慣が、長期的に大きな差を生みます。
家を暖かく保ってもいい!
我慢強い私たち日本人はエコの観点からもつい、室内をもっと暖かくするより「自分が一枚余分に着ればいいって、昔おばあちゃんに言われたし…」と考えてしまいますが、オランダの保健所にあたるGGDは「冬場に湿度の高い室内の気温が下がるとカビ繁殖のチャンスです。カビ予防のためには、いつも人がいないランドリー周りやバスルームなども含め、常に家中を暖かく保ちましょう」と呼びかけています。
暖房の設定温度を最低でも日中18℃、夜も最低15℃以上(できれば常に同じ温度)に保ち、人がいなくなる時も暖房を切ったりしないように、また暖かい空気が循環しやすいように、暖房のラジエータを家具やカーテンで覆わないことで湿気を外に逃がしやすくなる、とのことです。
光熱費も気にはなりますが、条件によってはこまめに暖房を切る方が余計にエネルギーが必要という場合も。
そもそもカビによる健康被害や、カビ取りの手間や出費、最悪の場合壁の塗装のし直しなどのリスクを考えると、冬の暖房代は投資という考え方も。
寒いオランダの冬、家にも自分にもちょっと暖かくしてあげてもいいのかもしれません。
窓は二重になっていますか?
もう一つ大事なカビ対策があります。家にある結露しやすい窓は、単板ガラス(ガラス1枚)ではないでしょうか。
二重窓(ダブルガラス)やさらに断熱効果の高いHRガラスなどの断熱窓に交換すると、結露やその結果としてのカビが発生しにくくなるうえに、エネルギー効率も格段に高まります。
費用はそれなりにかかりますが、オランダは住宅の断熱改修を積極的に推進中なため、自治体(gemeente)や国の制度で補助金が出る場合もあります。地域によって条件は異なりますが、窓の断熱化やその他の住宅の省エネ改修が対象になることもあるため、国やお住まいの自治体の情報を確認してみましょう。
コラム1:オランダで手軽に手に入るカビ対策製品

HG schimmelreiniger schuimspray
オランダで定番のホームケア用品ブランドHGのカビ取りスプレー。泡タイプで密着力が高く強力。スーパーでも手に入りやすく、ブランドに安心感も高い一方、一本10€以上となかなかのお値段。

DIYショップなどでよく見かける人気商品。スプレータイプでHGよりも若干割安。

Cillit Bang schimmelreiniger spray
Wibraやオンラインのディスカウント系ドラッグストアでよく売られているコスパ系カビ取り剤。レビューでもそこそこの評判あり。

SchimmelX mould remover “chlorine-free” 0.750 l
塩素フリーで刺激臭が少ないタイプ。少しお高めですが、小さなお子さんやペットがいる家庭でも安心。

Dettol Desinfecterende multi-oppervlakken spray
除菌製品で有名なDettolのマルチホームケア洗剤。塩素フリーながら除菌効果が高く、日々のバスルームなどのケアに使えばカビ発生防止に。

Air Max® Mold Prevent Mold 500 ml
カビるまえ、またはカビを取った後の窓枠やバスルームの壁・天井にスプレーしておくと再発を防いでくれます。
コラム2:カビ関係用語集
カビ対策製品をお探しの時などにご活用ください。
| Schimmel | カビ |
| schimmel verwijderen, weghalen | カビ取り(verwijderen, weghalen=取り除く) |
| schimmel voorkomen | カビ予防 (voorkomen=予防する) 製品パッケージには「anti-schimmel」と表現されることも |
| antibacterieel | 除菌(抗菌) |
| vocht | 湿気 (luchtvochtigheid → 湿度) |
| ventileren / ventilatie | 換気 |
| condens | 結露 |
(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

メンタルヘルスの観点から見ると、私たちの家は本来、日々の生活のストレスから心身を休め、回復するための場所であることが望ましいものです。
快適で健康的な住環境は、身体的な健康だけでなく、心理的なウェルビーイングを支えるうえでも重要な役割を果たします。
しかし、室内が慢性的に湿っていたり、カビが発生している環境では、こうした「回復の場」としての住まいの機能が十分に発揮されない可能性があります。
呼吸器症状やアレルギー症状はよく知られていますが、それ以外にも、頭痛、疲労感、集中力の低下、目や皮膚の刺激感などが現れることもあります。これらの症状は比較的軽度であることも多く、仕事のストレスや睡眠不足、季節の変化などによるものと見過ごされてしまうことも少なくありません。
もし、こうした症状が家の外で過ごす時間が増えたときや、別の環境にいるときに軽くなるようであれば、室内の空気環境や換気、湿度が影響している可能性も考えてみるとよいかもしれません。
特に寒い季節には窓を閉め切る時間が長くなり、室内で過ごす時間も増えるため、住環境への意識がより重要になります。
定期的に換気を行うこと、室内の過剰な湿気を減らすこと、湿度を適切な範囲に保つことなど、日常のちょっとした工夫がより健康的な住環境づくりにつながります。
こうした小さな取り組みは、呼吸器の健康だけでなく、日常生活における快適さや集中力、そして心身のウェルビーイングを支えることにつながります。
(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
- 文:Goodwill代表 タナカケン
- 文・訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子
- イラスト作画:Goodwillメンバー 半田 智穂
- WEBデザイン・編集:チューリップデザイン

