

(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂)
「オランダの薬はこわい」?オランダ市販薬ガイド
「たいていのものはオランダで調達できるようになったけれど、薬だけは日本のものじゃないと不安で…」
そんな声を、特に小さなお子さんを持つお母さんたちからよく耳にします。
一時帰国の際に、向こう1年間で使う可能性のある薬をぜんぶ日本で揃えているという方も少なくありません。
胃薬、目薬、総合感冒薬、子ども用の咳止めシロップ、持病の漢方薬、虫刺されの薬…。
「念のため買っておこう」と思えばきりがなく、帰国のたびにドラッグストアのレジで「ヒエッ」と思っている人もいるのではないでしょうか。
体が小柄でなにかと繊細な文化を持つ私たち日本人には、「海外の薬は強い」というイメージが根強くあります。
成分名も聞き慣れないし、説明書もオランダ語。
ましてや病人や子どもに飲ませるとなればなおさら「合わなかったらどうしよう」と慎重にもなります。
でも実は、日本の薬が格段「やさしい」わけでも、全てのオランダの薬が劇薬なわけでもなく、むしろオランダの方が薬に対する姿勢は慎重なのは皆さんご存じの通り。
日本だったら風邪で医者にかかればおなか一杯薬を出してもらえるのに、オランダでは「よく休め」と言われるだけ…などということもあるあるです。
抗生物質もめったに出してもらえないので帰国時になじみの医者に無理を言って出してもらっているという人も。
どの国もそれぞれの方針と事情の中で認可する薬を決めているため、逆に日本では容易に手に入るのにオランダでは劇薬・麻薬扱いの薬もたくさんあります。
たとえば、日本で市販の風邪薬によく入っている「コデイン」や「エフェドリン」はオランダでは重篤な副作用を懸念して子ども使用禁止の処方薬だったりそもそも利用禁止だったりで、オランダ人の医療関係者は日本の薬局で気軽に買えることに驚きます。
また価格の面でもオランダの薬を試してみる理由が。
オランダでは2000年前後から薬価抑制政策(Geneesmiddelenbeleid)が進められており、さまざまな制度で薬価の透明化と抑制がなされているため、同じ成分・用量の薬ならオランダの方が格段に安く購入できることがほとんどです。
もちろん、安全性は厳格なEUとオランダの薬事法に基づいて保証されています。
困ったときに頼る存在だからこそ、安心して使いたい「薬」。こちらの「代替案リスト」や「ケン先生の解説」をご参考になれば幸いです。
お薬についてご質問があればいつでもGoodwillにお問い合わせください!
パラセタモールとイブプロフェンの違い
オランダでスーパーでも手軽に買える鎮痛解熱剤として、パラセタモール(Paracetamol)とイブプロフェン(Ibuprofen)があります。
「なんとなくイブプロフェンの方が強そう」というようなイメージを持っている人が多いですが、実際の違いは以下のとおりです。ケースによって使い分けましょう。
パラセタモール(Paracetamol)
日本では「タイレノール」や「小児用バファリン」の単一成分で、多くの総合感冒薬などに配合されているアセトアミノフェンのお薬です。脳の視床下部にはたらきかけて体温を下げたり、痛みを感じにくくさせることで症状を抑えます。胃への負担が少なく安全性が高いので、妊娠中や子どもにも比較的安心とされている(日本でも妊婦さんに頻繁に処方されます)ほか、できれば極力薬を使いたくない人も頭痛がひどくなる前に一錠飲んでしまう、またはあまり食べられないけれど発熱や痛みがある際に、というような使い方をしやすい薬です。軽度の発熱や頭痛、生理痛など幅広く手軽に使えます。
イブプロフェン(Ibuprofen)
同名の成分が日本では「EVE」などの市販薬で使用されていて、炎症反応に関係する酵素の働きを抑えることで炎症・発熱・痛みを軽減する薬です。炎症を伴う痛み(インフルエンザや風邪などの感染症の頭やのどの痛み、リウマチなどの関節痛、筋肉痛、歯痛など)により効果的ですが、パラセタモールよりも確認されている副作用が多く、特に空腹時に飲むと胃を荒らす可能性があるため可能な限りおなかに何か入れてから服用することが強く推奨されます。
オランダで「とりあえずパラセタモール」という風潮があるのはこういった理由のためです。
日本の解熱鎮痛剤や総合感冒薬の中には「バファリンプレミアム」など両者が混合で配合されている市販薬も多くあります。ちなみに「バファリンA」の成分である「アスピリン(アセチルサリチル酸)」は副作用リスクへの懸念から、オランダの医療業界は近年さらに慎重な姿勢を強めており、薬局で見つからないこともしばしばです。
日本の市販薬の代替品が欲しくなったら
日本でいつも使っていた薬がオランダにいる間に切れてしまった!
必要ないと思っていたけれど急に必要になった!
こんなことは海外暮らしでよくあります。
お薬の名前は基本的に「商品名」なので、「『ムヒ』をください!」などと言ってもオランダで通じることはまれですが、薬の箱や説明書には必ず「成分名」が書いてあり、カタカナならばそれをはっきり発音してどんな問題のために使っている薬か説明すれば薬剤師や医師ならピンとくることがほとんどです。
また、飲み薬の服用量は年齢はもとより体重が大きな判断材料になるため、もしもどれくらい飲んでいいのか確認したいときは利用者の年齢・性別と大体の体重を伝え、適切な服用量を尋ねれば詳しく教えてもらえますよ。
ちなみに、薬局で薬剤師以外の店員さんはお薬に関して説明する権利を持ちませんので、質問があるときは薬剤師(apotheker)かどうか名札で確認しましょう。
鎮痛剤などを買うとレジで「この薬に関して質問はありますか?」と尋ねられることもありますが、これは法律で義務付けられているためです。使い方などに特に不明点がなければ「ありません」で大丈夫です。
- In Japan, I used to take a medicine that contains 〇 and △ for ✕. Is there something similar available here?
(「日本では✕のために、〇と△が配合された薬を使っていました。こちらで手に入る代替品はありますか?) - Could you help me find something similar to this medicine? I have a photo / the package here.
(これに似たものを探しているのですが、お手伝いいただけますか?写真/パッケージがあります) - I’m a bit concerned that the Dutch standard dose might be too strong for me, as I’m quite small.
(私は小柄なので、オランダの通常用量だと効きすぎるのではと少し心配です) - If this doesn’t help enough, is it safe to take more? After how many hours can I take another dose? What’s the maximum daily dose?”
(もし十分に効かなかった場合、もう少し飲んでも大丈夫ですか?次の服用までに何時間空ける必要がありますか?1日に飲んでよい最大量はどのくらいですか?)
(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
オランダと日本の市販薬―よくある誤解
「オランダの市販薬は日本の薬よりも強い」というイメージを持っている人はとてもたくさんいますが、私の見解ではこれは誤解と申し上げていいと思います。
たとえば、日本でいわゆる総合感冒薬として知られる「ルル」や「パブロン」のような市販薬の多くは複数の有効成分が含まれていますが、その中にはオランダやEUでは市販での販売が禁止されている成分もあり、慎重に使用する必要があります。
一例として、とある一般的な日本の「かぜ薬」の成分を見てみましょう。
- アセトアミノフェン(900mg)…解熱鎮痛作用
- クレマスチンフマル酸塩(1.34mg)…抗ヒスタミン成分(くしゃみ・鼻水を抑える)
- ジヒドロコデインリン酸塩(24mg)…咳止め(モルヒネ誘導体)
- ノスカピン(48mg)…鎮咳作用補助
- dl-メチルエフェドリン塩酸塩(60mg)…気管支拡張作用
- グアイアコールスルホン酸カリウム(240mg)…去痰作用
- 無水カフェイン(75mg)…眠気を抑え、頭痛・倦怠感を和らげる
- ベンフォチアミン(24mg)…ビタミンB1誘導体(回復を助ける)
これらの成分には(一時的に)症状を緩和する効果がありますが、一方で薬がインフルエンザや風邪の根本的な治療をしてくれるわけではありません。特に私たちの多くが見落としがちなのが、アセトアミノフェンが900mgも含まれているという点。これは、他の薬と併用すると肝臓への負担が心配なレベルです。
さらにもっと心配なのが、ジヒドロコデインなどのモルヒネ誘導体が含まれていること。これらは副作用や依存性のリスクがあり、オランダを含むEU諸国では市販薬として販売されていない成分です。
EUでは厳しい医薬品規制が存在
EUにおける医薬品の承認と監督は欧州医薬品庁(EMA)が行っており、同庁はアムステルダムに本部を構えています。
EUは消費者の安全第一で、薬の過剰使用を防ぐことを重視するため、アメリカや一部アジア諸国と比べて規制が非常に厳格です。
オランダの医薬品使用は非常に慎重
オランダでは、医師の処方薬も市販薬も慎重に使用される傾向があります。
- 2019年の統計では、オランダはEU加盟国の中でも最も国民の処方薬の使用率が低い国の一つでした。ポルトガル、フィンランド、ベルギー、クロアチアなどでは55%以上でしたが、オランダは40%未満にとどまっています。
- 抗生物質の使用量も、2014年のWHO-ECDCデータによればEUで最も低い水準です。
- 市販薬の使用もEU平均(約30〜35%)よりやや低めであり、強力な市販薬には購入時に薬剤師の説明が必要とされるなど、厳しい販売管理体制が整えられています。
おわりに
冒頭で「オランダの薬が強いというのは誤解」と申しましたが、かといってオランダの市販薬が「弱い(=効かない)」わけでもありません。
オランダでは薬には極力頼らずに健康に過ごせればそれが一番という考え方から、市販薬は意図的に「必要最低限の用量で」「シンプルな配合で」設計されています。一方、日本の市販薬は複数成分の配合がされているため、効果も強く複雑な場合が多くあります。
一概にどちらがいいという話ではありませんが、こうした違いを知っていることで、海外生活において市販薬の飲みすぎ・飲み合わせによる副作用・国内持ち込みにまつわる法的な問題などを避けて、賢くお薬を利用することができますよ。
(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
- 文:Goodwill代表 タナカケン
- 文・訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子
- イラスト作画:Goodwillメンバー 半田 智穂
- WEBデザイン・編集:チューリップデザイン