オランダのかかりつけ医で定番!「パラセタモール」とは?

和か蘭家のオランダ暮らし

パラセタモールとは

(作画:Goodwillメンバー 半田 智穂)

記念すべき第一回目は誰もが通る道、

せっかく医者にかかったのに、『パラセタモール飲んどけ』と言われるだけ」です。

パラセタモールはアセトアミノフェンという成分の単剤で、胃にやさしく比較的安全なお薬なので、オランダでは万能薬のように使われがちです。

日本ではカロナール、タイレノールなどの市販薬として販売されているほか、総合感冒薬や子ども用のバファリンなどにも配合されています。

「病気でも仕事する」という文化のないオランダにおいて、風邪は「休んで治るのを待つ」もの。風邪を治す薬などないのだから、辛ければ痛み止めでしのぎなさい、ということなのです。

ここはオランダ流に潔く休んでしまうのも手ですが、せっかく受診したのなら何らかの安心感を得て診察室を出たいですよね。症状を話せばお医者さんが勝手に判断して色々処置してくれる日本のお医者さんと違い、オランダでは患者自身が受診に何を求めているのか明確にすることが大切です。どの症状が辛いのか。

薬を出してほしいのか。何の病気なのか知りたいのか。
検査してほしいのか。深刻な病気ではと不安なのか。
オランダのお医者さんも鬼ではありませんので、率直にたずねれば精一杯サポートしてくれます。

うまく説明できるか、この症状で医者にかかっていいのかなど、自信がないときはお気軽にGoodwillにご相談ください!

ちなみに、パラセタモールと並んでメジャーな解熱鎮痛剤(ドラッグストアやスーパーなどで非常に安価に売っている)にイブプロフェンがあります。イブプロフェンは解熱鎮痛効果の他、抗炎症作用があるため、炎症を抑える効果があるので関節炎や風邪、インフルエンザなどに向いています。

※医師からの詳しい解説はこちら

キーワードとお役立ちフレーズ
  • Huisarts(蘭)…「かかりつけ医」。あなたの受診歴をすべて把握しているパートナー。オランダでは歯科以外の健康上の問題はまず何でもこの人に相談します。
  • Uitzieken(蘭)…「自然治癒を待つ」。パラセタモールと並んで医者に言われるとトホホとなる言葉です。
  • Afspraak(蘭)…「予約、約束」。お医者さんはすべて予約制です。
  • Paracetamol…ご存じの通り。詳しい解説はこちら

“I have a bad cough and can’t sleep. Is there any medication you can prescribe?”
(咳がひどくて眠れません。何か出してもらえる薬はありますか)

“The pain in the back is bothering me a lot. What would you recommend me to do?”
(腰痛がとても辛いです。どんなことをすればいいですか)

“I am worried and would like to make it clear that it’s not something serious. Is it possible to refer me to a specialist?”
(心配なので検査して深刻な病気じゃないことを確かめたいです。専門医に紹介してもらえますか)

(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

Dr.ケンのちょっとセツメイよろしいですか

パラセタモールとは?

パラセタモールは日本ではアセトアミノフェンとも呼ばれ、解熱鎮痛薬として世界的に広く利用されています。

WHO はアセトアミノフェンを必須医薬品としており、同薬はその有効性と安全性から多くの国の様々な臨床ガイドラインで最優先の解熱鎮痛薬として指定されています。

特に消化器系、腎臓、血管などへのリスクが小さく、イブプロフェンやアスピリン、ロキソニンなどといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)よりも安全な選択肢と一般的に考えられています。

日本で痛み止めとしてパラセタモール(アセトアミノフェン)がオランダほど多用されていない1理由のひとつは、法律で認められている配合用量が少なく(他の国の半分程度)、その量では顕著な効果がないため。

オランダでは、パラセタモールは誰もが使う薬として知られています。

安価でどこにでも売っており(スーパーやドラッグストアでひと箱1~2ユーロで買えます)、ほとんどの国民がすぐに使えるように家や職場に常備しています。

2016 年にはドラッグストアで販売された医薬品の 4 分の 1 以上がパラセタモールで、オランダの薬局で最も売れている市販薬であるというデータ2も(それに加えて鼻づまりの治療に使用されるキシロメタゾリンと先述のイブプロフェンが、国内市販薬セールストップ3となっています)。

そんなパラセタモールですが、もちろん副作用もあります。特に過剰摂取した場合などは肝不全を引き起こし、命にかかわる可能性も否定できません。

そのため一部の国では店頭販売を制限したり、配合量を120mg など低用量にしたり(オランダは500㎎)といった動きも。
またオランダでは、13 歳から 17 歳の若者によるパラセタモールの意図的な過剰摂取が過去 2 年間で急増しているとする調査3もあります。

一回ずつの用量を守っていても乱用により薬物依存性頭痛を引き起こす可能性があり、パラセタモールのみならず、ジクロフェナク、イブプロフェン、モルヒネ、片頭痛治療薬などの鎮痛剤全般は、1 ヵ月に 15 日、3 ヵ月を超える長期利用は避けたいところです4
1 日に半錠や1錠なら毎日服用しても無害な感じもしますが、深刻な結果を引き起こす可能性もあるのです。

オランダの医療システム ー かかりつけ医は「門番」

では、なぜオランダのかかりつけ医はことあるごとにパラセタモールを飲めと言うのでしょうか?

オランダの医療システムにおいては、かかりつけ医が「門番」として重要な役割を担っています。

彼らはまず一次的な医療ケアを提供し、それが十分でない場合には総合病院の専門医療に紹介状を書いてくれます。

このシステムにより、本来なら専門医療が必要でない軽症の患者で病院が手いっぱいになったり、国民の医療費が高騰したりしないようになっているのです。

また医療関係者や患者が必要な時にまとめて参照できるように患者の過去の医療データを一括して管理したり、症状から判断して最もふさわしい専門家を見定める役割もあります。

この「ゲートキーパー機能」を担当しているかかりつけ医は、自己制限性疾患(治療や介入をしなくても自然に治まる病気)に頻繁に出くわします。腰痛、便秘、花粉症、頭痛、下痢、疲労など5

それらに関して彼らは「Uitzieken(自然治癒を待ちなさい)」以外のアドバイスはしません。

ただし患者さんにとってその症状が辛くて耐えがたいようであれば、痛みや発熱などの症状を和らげるためにパラセタモールの服用をおすすめすることになります。

ここでのかかりつけ医の最も大事な仕事は、その症状が深刻な病気によるものではなく、専門医への紹介や特別な薬の処方が必要ないことを患者さんにご理解いただくこと。

しかしこのアドバイスが患者さんに信用してもらえるかどうかは主観的な問題であり、医師のコミュニケーション能力にかかっています。

診察にどれだけの時間をかけるかも、患者さんと医師の関係や診察のクオリティに大きく影響するでしょう。
一回の診察時間の決まりはありませんが、通常の診療は平均10 分以内で、1人のかかりつけ医は普通約2500 人の患者さんを受け持っています。多忙でストレスの大きい診察業務をこなすために、患者さんの来院や電話問い合わせを管理してくれる経験豊富な「アシスタント」も必要です。

また近年かかりつけ医不足の深刻化を受けて、パートタイム勤務のかかりつけ医も増加しています6

ホームドクターが勤務できない日は臨時雇いの医師に頼らざるを得ず、結果的に継続的な診療も保証できなくなり、医師の入れ替わりの激しさにより患者との関係にも影響を与えています。

大きな違いがある日蘭の「受診文化」

ここで日本とオランダにおける医療サービスの利用状況を比較してみましょう。

OECD(経済協力開発機構)の 2015 年のデータによると、日本在住の日本人はオランダ在住のオランダ人に比べ、1 人当たりの平均受診回数が2 倍となっています。

また同データによれば、日本は医薬全般への支出額が世界で 2 番目に高い国であり、オランダの 2 倍です。市販薬の年間購入額に関しても、平均的な日本国民は世界平均(年間 14.2 ドル) のほぼ 3 倍(同47.8 ドル)7を費やしています。

日本人は医療サービスや市販薬の利用頻度が世界的に見ても比較的高いことがうかがえ、翻ってオランダの医療制度がオランダ在住の日本人にとってハードルとなりうることは、容易に想像がつきます。

まとめ

パラセタモールは「自然治癒を待つしかない症状」の辛さを和らげるために安全かつ有効なお薬で、オランダの医療システムの「門番」であるかかりつけ医は深刻な病気である心配がないと判断するとこの薬を飲んでしのぐことをおすすめします。

しかしその場合、オランダと日本の医療文化の違いから、日本人はかかりつけ医が「使えない」という印象を抱きがちです。

かかりつけ医も外科医や産婦人科医のような専門医であることは、あまり知られていない事実です。

オランダのかかりつけ医は全員、大学で医学を修め(6 年間)、その後 3 年間の集中専門課程を修了しています。たとえ10分診療でも彼らの知識と専門性は信頼して大丈夫です。

しかし日本人の患者さんは言葉の壁やコミュニケーションの齟齬も相まって、診察で「パラセタモールを飲みなさい」と言われるだけでは、分かってもらえなかった感じが残ることもあるでしょう。

言葉の問題を埋めるために、医療通訳と一緒にお医者さんを訪れるのも一つの手段です。
しかし、限られた診察時間の中でいちいち通訳を介して話すのもなかなかのストレス。

時間を有効に使うために、お医者さんに会う前に、英語で言いたいこと、訊きたいことをまとめておくとよいでしょう。

英語で言いたいことのお手伝いをGoodwillでもお手伝いできます!

一方で、オランダのかかりつけ医のみなさんにも、受診文化とコミュニケーションの仕方に関する日蘭の文化差を知ってほしいものです。

(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)

  • 文:Goodwill代表 タナカケン
  • 文・訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子
  • イラスト作画:Goodwillメンバー 半田 智穂
  • WEBデザイン:チューリップデザイン
参考

1.The Difference in Analgesic Use of Acetaminophen between in Japan and Other Countries, and Possible Drug Cost Reduction Caused by the Acetaminophen Prevalence in Japan, Kentaro KAI, Shunya IKEDA, Masaki MUTO, Japanese Journal of Pharmacoepidemiology, 2013 Volume 17 Issue 2 Pages 75-86

2.Paracetamol het vaakst ‘over the counter’ van apotheek — SFK Website

3.NVIC: meer overdosering door jongeren – UMC Utrecht

4.Medicijnafhankelijke hoofdpijn – Slingeland Ziekenhuis

5.1004412.pdf (nivel.nl) Zelfzorg voor kleine kwalen, NIVEL

6.lhv_factsheet_gewenste-carrierepad-huisarts_definitief-3.pdf

7.Japan Over-the-Counter (OTC) Healthcare Market Size by Categories, Distribution Channel, Market Share and Forecast, 2021-2026 (globaldata.com)