(作:Goodwillメンバー/イラストレーター 半田 智穂)
季節性情動障害①冬季うつとは?
オランダの短い夏が終わると、あっという間に寒くて暗い季節がやってきます。
車が凍結して朝から余計な仕事が増えたり、少し気温が緩んだと思えば雨ばかりだったり…。
温泉も居酒屋の鍋料理もお正月ムードもない、長くて暗い冬がまたやってきたかと気分がふさいでいる人は、あなただけではありません。
ちなみに私はシンタクラースや年末年始などの出費でお財布の気分も大変ふさぎがちです。
関係ないですか。そうですか。
冬になると風邪をひきやすいのは疑う余地もありません(特に子どもが学校や保育園でウイルスをもらってくる頻度といったら!)が、「心の風邪=うつ」も同じことです。
私たちのメンタルヘルスは、「気の持ちよう」や「根性」だけで良好に保てると思ったらたいへんな勘違い。
私たちの気分の上がり下がり、感情、果ては考え方まで、ホルモンや栄養状態、身体や脳の疲労度、気温や湿度、時間といった物質的・外的な条件に大きく左右されるのです。
特にオランダに来た多くの日本人に冬に影響を与え、しかもコントロールのしようもないのが、寒くて雨ばかりで暗いこの気候。
日光を浴びられずにいるとビタミンDの合成だけでなく、メラトニンやセロトニンといった心身の調子やホルモン、睡眠などを整えてくれる物質も減少し、だるい、疲れやすい、やる気が出ない、頭がよく働かない、気分が落ち込む、不安やイライラ、人と会ったり活動するのが億劫などといった症状が現れることがあります。
これには「季節性情動障害(季節性うつ、冬季うつ)」というれっきとした名前があり、40年も前からうつの一種として認められています。
オランダに生まれ育った人ならば、長年のうちに自分なりの暗い冬の過ごし方を(無意識にしろ)身に着けているでしょう。
少しでも日が差したら森に散歩に出かけたり、お友達や家族と家を行き来したり、ひたすらクリスマスを楽しみにしたり。しかし私たちは冬を乗り越えるにあたり日本にいるときと同じマインドセットでいると、心身の調子を崩す可能性がある(以下のケン先生の医療解説もぜひお読みください)ことを知っておく必要があります。
次号で予防法や治療法について詳しくお話しします。
「季節性情動障害(季節性うつ、冬季うつ)」について、ケン先生の医学的解説はこちら!
- winter depression, seasonal depression, seasonal affective disorder (SAD)(英)…冬季うつ
- low mood(英)…気分の落ち込み
- lack of energy / motivation(英)…エネルギー / やる気が出ない
“Hello, I suspect I might have winter depression. My symptoms are 〇〇, 〇〇 and 〇〇. Could I make an appointment to consult the huisarts about this?”
(こんにちは、私は自分が冬季うつかもしれないと考えています。症状は〇〇、〇〇、〇〇などです。相談したいのでホームドクターの予約できますか?)
“I am experiencing difficulty concentrating, chronic drowsiness, and physical fatigue. I especially find it hard to wake up in the morning.”
(集中力の低下、慢性的な眠気、だるさなどがあり、特に朝起きるのが辛いです。)
“I would like to try things I can do myself before I rely on medication. Do you have any advice on lifestyle changes, activities, or nutritional improvements that could help?”
(薬に頼る前に自分でできる対策を取ってみたいのですが、ライフスタイルや活動、栄養改善などで何かアドバイスはありますか?)
(文:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
「季節性情動障害(季節性うつ、冬季うつ)」に関するご質問やお悩みなど、お気軽にGoodwillにお問い合わせください!
季節性情動障害(SAD)について
オランダにおける季節性情動障害(SAD)は「季節性うつ」「冬季うつ」とも呼ばれ、人口の約3~5%の人が抱えていると推定されています。通常秋や冬の暗い季節に発症し、春や夏の昼間の時間が増えるにつれて症状が改善・消失することが多いです。
SADは、冬が長く日照時間が短い北部地域に多いので、オランダで罹患率が高いのも納得ではないでしょうか。また男性よりも女性に多く見られることが報告されています。
うつ病の主な症状(気分の低下、疲労、集中力の低下)に加え、睡眠パターンが変化したり(過眠など)、糖質の多い食べ物(ご飯や麺、パンなどの主食や、甘いものなど)をいつもより食べたくなることが多くあります。
在蘭外国人におけるSADの罹患率
オランダにおいて移民のSAD罹患率に関する大規模な調査は知られている限りあまりありませんが、特に気候の異なる国(暖かく日差しの多い国など)からオランダに引っ越した人は、地理的・気候的な違い、社会的・文化的孤立、ケアに関する情報の不足や相談のしにくさなどの要因により、SADの影響を受けやすくなりがちです。
上のグラフを見れば一目瞭然ですが、特に9月から3月の間、オランダの日照時間は日本に比べて著しく少ないのです。
アメリカにおける調査では、「冬季うつ」とその軽度の状態である「冬季ブルー」を合わせた率が、調査範囲最北のアラスカ州では28.3%、最南のフロリダ州では4%と、優位差が明らかになっています。もちろんうつの罹患率には様々な要因が絡み合って寄与するものですが、気候が私たちの気分に与えうる影響を示唆する資料ではないでしょうか。
次号ではSADに効果的な光療法や、サポートしてくれる専門家について詳しくお話しします。
(文:Goodwill代表 タナカケン)
(訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子)
「季節性情動障害(季節性うつ、冬季うつ)」に関するご質問やお悩みなど、お気軽にGoodwillにお問い合わせください!
- 文:Goodwill代表 タナカケン
- 文・訳:Goodwillメンバー ウルセム幸子
- イラスト作画:Goodwillメンバー 半田 智穂
- WEBデザイン・編集:チューリップデザイン